本ドキュメントは、任意の圏における射影的対象の定義から出発し、極値不連結コンパクトHausdorff空間の特徴付け、Gleasonの被覆定理とその詳細な証明、保存形式、保存された位相的性質、そして現代の凝縮数学(Condensed Mathematics)における応用例にいたるまでのすべての解説内容を網羅したものです。
圏 $\mathcal{C}$ における対象 $P$ が射影的対象 (projective object) であるとは、任意の全射(通常はエピ射、あるいは文脈により指定された全射のクラス) $f: A \to B$ (または $e: E \to X$)と、任意の射 $g: P \to B$ (または $f: P \to X$)に対して、ある射 $h: P \to A$ (または $\tilde{f}: P \to E$)が存在して次の図式を可換にすること(すなわち $f \circ h = g$ または $e \circ \tilde{f} = f$ を満たつこと)を言います。
これは、以下の図式が可換になるような射が常に存在するという意味です。
注意: 位相空間の圏などを扱う場合、通常「全射」は「全射である連続写像」のクラスを指します。
位相空間 $X$ が極値不連結 (extremally disconnected) であるとは、 $X$ の任意の開集合 $U \subset X$ の閉包 $\overline{U}$ がまた開集合(すなわち開かつ閉集合:clopen set)になることを言います。
コンパクトHausdorff空間 $X$ において、以下の条件はすべて互いに同値です。
$U, V \subset X$ を $U \cap V = \emptyset$ を満たす開集合とします。
$U \cap V = \emptyset$ より、 $U \subset X \setminus V$ です。 $X \setminus V$ は閉集合なので、閉包の定義から $\overline{U} \subset X \setminus V$ となり、したがって $\overline{U} \cap V = \emptyset$ です。
これから $V \subset X \setminus \overline{U}$ が従います。
条件(1)より $\overline{U}$ は開集合なので、その補集合 $X \setminus \overline{U}$ は閉集合です。
したがって、再び閉包をとることで $\overline{V} \subset X \setminus \overline{U}$ となり、 $\overline{U} \cap \overline{V} = \emptyset$ が示されました。
$U \subset X$ を任意の開集合とします。 $V = X \setminus \overline{U}$ とおくと、 $V$ は開集合であり、明らかに $U \cap V = \emptyset$ です。
条件(2)より、 $\overline{U} \cap \overline{V} = \emptyset$ が成り立ちます。
一方で、 $U \cup V = U \cup (X \setminus \overline{U})$ は $X$ において稠密です(実際、この集合の閉包は $\overline{U} \cup \overline{X \setminus \overline{U}}$ ですが、任意の点 $x \in X$ について $x \in \overline{U}$ でなければ $x$ は開集合 $X \setminus \overline{U}$ に含まれるため、必ずこの閉包に入ります)。
したがって、 $\overline{U} \cup \overline{V} = X$ です。
$\overline{U}$ と $\overline{V}$ は互いに素で、和集合が $X$ になる閉集合同士なので、 $\overline{U}$ の補集合は閉集合 $\overline{V}$ です。すなわち $\overline{U}$ は開集合でもあり、条件(1)が示されました。
条件(1)より、任意の開集合の閉包は開かつ閉(clopen)です。$U \subset X$ を開集合、 $f: U \to [0, 1]$ を連続写像とします。 $\overline{U}$ は開かつ閉部分空間なので、 $X$ 全体への延長を考えるには、まず稠密な開部分集合 $U \subset \overline{U}$ から $\overline{U}$ への延長を構成すれば十分です。したがって、 $U$ が $X$ で稠密であると仮定して構いません。各 $r \in [0, 1] \cap \mathbb{Q}$ に対し、開集合 $U_r = \{x \in U \mid f(x) \lt r\}$ を考えます。条件(1)より $W_r = \overline{U_r}$ は開かつ閉集合です。ここで、 $X$ 上の関数 $\tilde{f}: X \to [0, 1]$ を以下のように定義します: $$\tilde{f}(x) = \inf \{ r \in [0, 1] \cap \mathbb{Q} \mid x \in W_r \}$$ この $\tilde{f}$ がウェルディファインドであり、 $U$ 上で $f$ と一致し、かつ連続であることを標準的な議論(Tietzeの延長定理の証明の変形)によって示すことができます。逆もまた、[0,1]への関数を特性関数のように用いることで示されます。
コンパクトHausdorff空間と連続写像の圏を $\text{CHaus}$ ($\mathbf{CHaus}$) とします。この圏における射影および全射は、通常の全射連続写像です。
定理 (Gleason, 1958)
$\text{CHaus}$ における対象 $P$ が射影的であることの必要十分条件は、 $P$ が極値不連結なコンパクトHausdorff空間であることである。
$P$ を極値不連結なコンパクトHausdorff空間とします。全射連続写像 $f: A \to B$ と連続写像 $g: P \to B$ が与えられたとき、持ち上げ $h: P \to A$ の存在を示します。
まず、ツォルンの補題(Zornの補題)を用いることで、 $A$ の閉部分空間 $A'$ であって、 $B$ への制限写像 $f(A') = B$ が全射であり、かつその任意の真の閉部分集合 $F \subsetneq A'$ に対して全射性を満たさなくなるような「極小」なものが存在します。このような全射を既約全射 (irreducible surjection) と呼びます。したがって、最初から $f: A \to B$ は既約全射であると仮定して構いません。
ここで、ファイバー積(引き戻し) $P \times_B A = \{(x, y) \in P \times A \mid g(x) = f(y)\}$ を考え、第一射影を $\pi_1: P \times_B A \to P$ とします。 $\pi_1$ もまた全射連続写像です。同様に、 $P \times_B A$ の閉部分空間 $M$ で、 $\pi_1|_M: M \to P$ が既約全射となるものを取ります。
ここで「極値不連結空間への既約全射は同相写像である」という重要な事実があります。 $M$ の任意の開集合 $V$ に対し、既約性から $\pi_1(M \setminus V)$ は $P$ の真の閉集合であり、その補集合 $U = P \setminus \pi_1(M \setminus V)$ は空でない開集合で、 $\pi_1(V) \subset \overline{U}$ となります。 $P$ は極値不連結なので $\overline{U}$ は開かつ閉です。これを利用して、 $\pi_1|_M$ が単射(したがって同相写像)であることを導けます。
したがって、 $\pi_1|_M: M \to P$ は同相写像です。その逆写像を $s: P \to M \subset P \times_B A$ とし、第二射影を $\pi_2: P \times_B A \to A$ とすると、 $h = \pi_2 \circ s: P \to A$ が求める連続な持ち上げになります( $f \circ h = f \circ \pi_2 \circ s = g \circ \pi_1 \circ s = g$ )。
$P$ を $\text{CHaus}$ の射影的対象とします。
任意のコンパクトHausdorff空間 $P$ に対して、そのGleason被覆と呼ばれる、ある極値不連結コンパクトHausdorff空間 $\widetilde{P}$ からの既約全射 $\pi: \widetilde{P} \to P$ が存在することが一般論として知られています。
$P$ は射影的対象なので、恒等写像 $\text{id}_P: P \to P$ に対して、 $\pi$ を経由する連続な持ち上げ $s: P \to \widetilde{P}$ が存在します( $\pi \circ s = \text{id}_P$ )。
このとき、 $s$ は閉埋め込みであり、 $P$ は極値不連結空間 $\widetilde{P}$ のレトラクト (retract) (引き込み)になっています。「極値不連結空間のレトラクトはまた極値不連結である」という位相的性質により、 $P$ 自身も極値不連結であることが結論づけられます。
Gleasonの被覆定理(Gleason's Cover Theorem)は、直感的に言えば、「どんなコンパクトHausdorff空間も、その本質的な位相構造を壊さないように上から覆いかぶさる『射影的(極値不連結)な空間』をただ1つ持つ」ということを主張しています。
任意のコンパクトHausdorff空間 $X$ に対して、以下の条件を満たす極値不連結コンパクトHausdorff空間 $E$ と連続写像 $\pi: E \to X$ の組 $(E, \pi)$ が存在する。
1. $\pi: E \to X$ は既約全射である。
2. このような被覆 $(E, \pi)$ は、同相を除いて一意に定まる。
この $(E, \pi)$ を $X$ の Gleason被覆 (Gleason Cover) と呼ぶ。
$X$ の正則開集合の全体を $RO(X)$ とします。 $RO(X)$ は、以下の演算により完備ブール代数になります。
任意の完備ブール代数のStone空間(その上の超フィルター全体のなす空間)は、極値不連結コンパクトHausdorff空間になることが知られています。そこで、$E$ を $RO(X)$ のStone空間 $S(RO(X))$ として定義します。これにより、 $E$ は極値不連結コンパクトHausdorff空間となります。 $E$ の点は、 $RO(X)$ 上の超フィルター(極大フィルター) $\alpha$ です。
Step 2: 射影写像 $\pi: E \to X$ の定義各超フィルター $\alpha \in E$ に対して、 $X$ の部分集合族 $\{\overline{U} \mid U \in \alpha\}$ を考えます。 $\alpha$ はフィルターなので、この族は有限交差性を持ちます。 $X$ はコンパクトなので、この共通部分は空ではありません: $$\bigcap_{U \in \alpha} \overline{U} \neq \emptyset$$ さらに、 $X$ がHausdorff空間であり、 $\alpha$ が「極大」フィルターであることから、この共通部分はただ1点のみからなることが証明できます。そこで、この唯一の点を $\pi(\alpha)$ と定義し、写像 $\pi: E \to X$ を得ます。
Step 3: $\pi$ が「連続な既約全射」であることの証明被覆が本質的に1つしかないことを示します。 $(E_1, \pi_1)$ と $(E_2, \pi_2)$ を、ともに $X$ のGleason被覆とします。
$E_1$ は極値不連結なので、 $\mathbf{CHaus}$ における射影的対象です。したがって、全射 $\pi_2: E_2 \to X$ と写像 $\pi_1: E_1 \to X$ に対して、持ち上げ $f: E_1 \to E_2$ が存在し、 $\pi_2 \circ f = \pi_1$ を満たします。
したがって、 $f$ は同相写像となり、Gleason被覆の一意性が示されました。
提唱された凝縮数学 (Condensed Mathematics) においては、極値不連結空間の圏 $\text{ExtrDis}$ ($\mathbf{ExtrDisc}$) は、凝縮集合(Condensed sets)を定義するためのサイトの基盤そのものとして決定的な役割を果たします。理論上特に重要となる5つの空間は以下の通りです。